事業レポート
CCBTx × ARS ELECTRONICA 2024 “Electromagnetic Street Bon Dance Festival”
シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]を運営する東京都及び公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京は、2023年度CCBTアーティスト・フェロー「ELECTRONICOS FANTASTICOS!」が、その活動を通じて創り出した新たな祭りの構想「発電磁行列」を発展させ、“Electromagnetic Street Bon Dance Festival”としてオーストリアのリンツ市を拠点に活動する文化機関「アルスエレクトロニカ(Ars Electronica)」が毎年実施している世界最大規模のメディア・アートの祭典「アルスエレクトロニカフェスティバル(Ars Electronica Festival)」へ出展しました。現地での様子と、出展に至る経緯を、2023年度のCCBTアーティスト・フェロー活動を含めインタビューで振り返ります!
エレクトロニコス・ファンタスティコス!が
電磁盆踊りで世界中を踊らせる
東京のCCBTを契機に再び世界へ広がる電磁の渦!アルスエレクトロニカ2024を振り返る
2015年にアーティストの和田永を中心に始動したELECTRONICOS FANTASTICOS! (以下、ニコス)は、古い電化製品を「電磁楽器」として蘇生させる参加型アートプロジェクトだ。東京や京都など全国各都市とインターネット上にラボを立ち上げ、現在の参加メンバーは100人を大きく超えるという。2023年、このニコスはシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]の「アーティスト・フェロー」に採択され、CCBTを拠点にしながらさまざまなワークショップやクリエイションが行われた。3月にはその成果発表として、巨大な発電祭山車と電磁楽器の隊列が練り歩く「発電磁行列」を東京国際クルーズターミナル横の東八潮緑道公園で実施。大きな話題となった。
その「発電磁行列」の発展形として、「Electromagnetic Street Bon Dance Festival」を、9月にオーストリア・リンツ市で開催されたメディア・アートの祭典「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」で東京都、アーツカウンシル東京(CCBT)からの出展として実施。「炭坑節」などを演奏し、大観衆を巻き込んだ電磁盆踊りを繰り広げた。ヨーロッパ最大級のメディア・アートの祭典という大舞台で、ニコスのパフォーマンスはどのように受け止められたのだろうか。香港滞在中の和田永と、ニコスのプロデューサーを務める清宮陵一にオンラインで話を伺った。
●「自分も焚きつけるし、焚きつけられる」
――まずは今年3月に開催された「発電磁行列」についてお聞きしたいのですが、これまでニコスはステージや櫓など固定型の舞台で演奏してきましたよね。山車ごと移動する練り歩きの構想はどのように生まれてきたのでしょうか。
和田:ニコスは最初に立ち上がった東京だけではなく、各地のメンバーがラボを立ち上げながら活動してきたんですね。たとえば秋田だと高校生や大学生が中心になって地元で盆踊りイベントを企画したり、名古屋や京都、茨城の日立などにラボが立ち上がってきました。2023年に入ってCCBTのアーティスト・フェローを受けることになって、新しくメンバー募集もしつつ、各地のメンバーが集結する形で「発電磁行列」に初めて挑戦することになりました。水・風・土・火に次ぐ<電>を中心に据えた祭りとして、古い家電がある種の妖怪として町に繰り出していくような、家電による令和の妖怪百鬼夜行のイメージですね。東京国際クルーズターミナル横の東八潮緑道公園を舞台に、約70名で「電磁祭囃子」を奏でながら練り歩きました。
――東京のCCBTではどのような作業をしていたのでしょうか。
和田:人々が集って、ネオン管や冷却ファンを使った新しい楽器を実験したり、八木提灯や提灯電柱といった祭りのアイテムを創作したり、実際に音を鳴らしながら流れを作っていったり、家電演奏研究していたりしました。その様子をオープンスタジオとして公開もしていました。大きなトピックとしては、遠藤治郎さんを交えて発電できる山車を設計、創作していったということですね。われわれは家電の楽器を演奏しているので電源が必要なわけで、練り歩くということは電源と共に歩む必要が出てくるんです。それでソーラーパネルで発電し、蓄電池に電気を蓄える発電磁山車を作りました。
――現在のラボのメンバーは何人ぐらいなのでしょうか。
和田:今や200人ぐらいいるかもしれないです。時々参加する人々も含めるともっといるかもしれない。ニコスがこれまでに作ってきた楽器のファンという方が多くて、「自分で演奏したい、作ってみたい」という熱量の高い方が多いんです。自分も焚きつけるし、焚きつけられるし、その相互作用という感じですね。アンコントローラブルな状況になることもあるんですけど、そこをみんな楽しめていると思います。
――実際に「発電磁行列」をやってみていかがでしたか。
和田:だいぶ、無茶をしましたね(笑)。発電磁山車を作っても結局、電線や電柱が必要になってくるんですよ。それも発電磁山車と共に移動することになるわけで、町そのものが移動するような壮大なものになってしまいました。
――山車と演奏チームの練り歩きだけでは終わらなかったわけですね。
和田:そうなんですよ、そこで、提灯つきの電柱をつくり、手で持って一緒に練り歩く送電班が生まれました。練り歩きの最後は山車を中心にした『電磁盆踊り』に雪崩れ込んでいきました。コロナ禍でしばらくメンバーが集まれなかったこともあって、ひさびさに発電磁行列の場で再会したんです。そのこともあって盆踊りがグルーヴするような感覚がありましたね。コロナが明けたことで自分たちのなかで盆踊りの気運が高まったこともあったし、あちこちから電磁盆踊りのお声がかかったこともあって、気づいたら毎週末のように各地を巡ることになり、結果としてツアーという形になりました。
ただツアーといっても、その場所ごとに新たなメンバーを募集して、楽器や演目をつくりながら巡っていくというチャレンジングなもので、毎回集う人々によって内容が大きく変化していきました。
●「これ、どうやって踊るんだ?」と悪戦苦闘
――それが今年8月から9月にかけて5ヶ所で行われた「電磁盆踊りTOUR」となるわけですね。
9月4日にはオーストリア・リンツ市で開催されたメディア・アートの祭典「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」に出演されています。「発電磁行列」から続くCCBTの文脈での公演ということで、「Electromagnetic Street Bon Dance Festival」というタイトル通り、こちらも盆踊りだったんですね。ニコスで「アルスエレクトロニカ」に出演するのは2018年、2019年に続いて3回目ですよね。
和田:僕自身はその前からアルスでパフォーマンスや展示をやってきたので、もはや何度目かわからなくなってますね。ただ、コロナ禍で海外に行けない時期が長かったので、ひさびさのアルスだったんですよ。その間に楽団のメンバーも増えて。僕ら自体、常に有機的に変化している集団なので、簡単に遠征できなくなっていたこともありました。今回も、かなりチャレンジングな状況だったのですが、アルスエレクトロニカと事業連携をしているCCBTから、「発電磁行列」の続きをアルスでやらないかとお声がけいただき、実現させることができました。そのほかにも、コロナが明けて海外からのオファーが一気に増えていたので、ようやく体制を整えて久々に海外活動を再開することになりました。
――アルスでは何人編成でパフォーマンスをやったのでしょうか。
和田:日本から行ったのは14人です。プラス2人、現地で合流したメンバーもいました。SNSで参加したい人を募集したんですけど、そうしたらフランスとアメリカから参加してくれた人がいたんですよ。そのふたりもすごい熱量で、「発電磁行列」の曲を頭に入れた状態で来てくれました。
清宮:コロナ禍にも世界各国から参加希望のメッセージが送られてきたので、Facebookにワールドワイドラボというグループを作ったんですよ。そこで自由にコミュニケーション取れるようにしたんですけど、そこに参加しているメンバーがアルスにも来てくれたんです。ひとりはフロリダのドミニクくん、もうひとりがストラスブールのコームくん。どちらも若くて、コームくんは19歳かな。自分でも音楽を作っているんですよ。
和田: コームくんは変わった音楽を作っていて、僕らのやってる音楽の音律に惹かれたみたいで。家電の音ってピアノとは違って大きく揺らいでいるのですが、逆にそこに惹かれたみたいでした。
――アルスではリンツ市の歴史ある大聖堂の前に作られた特設ステージでパフォーマンスしたそうですね。
和田:そうなんですよ。リンツの街中にある象徴的な大聖堂前に、赤提灯と古家電を並べた櫓的なステージを建てて祭空間をつくりました。そもそも向こうの人たちは盆踊りが何かわからないうえに、さらに家電を楽器にしているわけで、謎要素だらけだったと思います。
――日本の場合、ニコスが何をやるか知らなくても、盆踊りは誰もが知っているわけですよね。
和田:そうそう、炭坑節はみんな知っていますからね。
――でも、アルスでは盆踊りという前提すら共有されていないわけですよね。盆踊りを知らないお客さんを巻き込むためにどのようなことを考えていましたか。
和田:盆踊りの説明から必要だったので、死者を迎える伝統的な踊りであることをつたない英語で説明しました。なおかつ古い家電がデッドテクノロジーとともに蘇るのです、と。そこまで説明したら、みなさん「おおー」と反応してくれましたね。
清宮:向こうでは円になって踊るという概念がないので、大きなボードに描いて説明しました。真ん中にステージがあって、その周りを回るんだよ、と。最初はそれで一気に動いてくれたんですけど、こちらの想定以上の人が集まっていたので、なかなか難しくて。
――人が多すぎて、うまく踊りの輪ができなかった?
和田:そうですね。もみくちゃでした。でも、みなさんすごく興味を持ってくれました。炭坑節の振り付けもレクチャーしたんですけど、みんな「これ、どうやって踊るんだ?」と悪戦苦闘しながら踊ってくれましたね。
●「リズムと家電は世界の共通言語」
――YouTubeにアルスでの動画が上がっていますが、すごい熱気ですよね。
和田:カオス空間でしたね。ステージ上に何人か踊りの手本となる方が参加してくれたんですけど、徐々に踊りもフリースタイルになってきて、ノリのいい人たちがステージに雪崩れ込んできちゃったんです。それぞれで全然関係ない踊りを踊っていて、すごくおもしろかったですね。踊りの型がどんどん崩れていくんですよ。
――いくらレクチャーしてもフリースタイルになっていくのが興味深いです。
和田:そうですね。盆踊りが何かわからなくても祭りのリズムには聞く者を惹きつけるものがあるんだろうし、それは万国共通だと感じました。盆踊りの振りは共有されなくても、リズムと家電は共通言語でしたね。
――終演後の反響はいかがでしたか。
和田:いやー、すごかったですね。ライヴが終わったあとリンツの街中を歩いていたら、炭坑節を踊りながら近づいてくる人がいるんですよ。昨日やってた日本人だろ?って。ライヴ後もそういう反響があっておもしろかったですね。「どんな死者が来ていたかい?」と聞かれて、思わず「ナムジュン・パイクだったら最高!」と答えましたね。
――メンバーと機材も多いニコスのパフォーマンスを海外でやるのはすごく大変ですよね。和田さんはそれでもこのプロジェクトを海外に持っていく意義のようなものも感じているのでしょうか。
和田: 確かに海外でやるのは大変ですけど、アドベンチャーを求めるなら外せないです。異なる文化圏で、異なる要素や感覚を自分の中に取り込むことでもあり、言葉にはできない共通言語を見つけることでもあり。何より人が集うとそこに血が通い、物語が勝手に動き始める。血流と電流が交差しながら、未知の音楽を発見していく過程は異様に面白いですね。
――今回フロリダとストラスブールの方が参加したわけですけど、秋田や名古屋のように、海外にラボができる可能性もあるのではないでしょうか。
和田: それはぜひ期待したいですね。タイの路上でブラウン管が奏でられていたり、香港の裏路地でネオン管と室外機が重奏していたり。アラブのクラブで冷却ファンの爆音テクノが始まったり。サハラ砂漠で捨てられたバイクとラジオのセッションが夜な夜な始まったり。実際に僕らの影響で、コロンビアにはブラウン管ドラマーがいてライブ活動していたり、イギリスにもブラウン管パンクバンドがいたりするんですよ。最近、中国でも無許可転載された僕らの動画を見て扇風機楽器をつくる若者が現れたりしていますね。
――それはすごい。すでに世界に広がりつつあるんですね。
和田:アルスでは会場の近所のライヴハウスにブラウン管を大量に所有してる方が奇跡的にいらっしゃって、そこからブラウン管をお借りしたんですが、電磁楽器の素材となる家電はあらゆる地域にまだあるんですよね。(家電楽器を作るうえでの)ノウハウさえシェアしていけば、僕らの知らないところで電磁楽器のバンドやラボが新たに始まる可能性はありますね。
■スタッフクレジット
執筆・取材:大石 始
編集:野村 祥悟(NiEW)
アーティスト:ELECTRONICOS FANTASTICOS!
CCBTx × ARS ELECTRONICA 2024 “Electromagnetic Street Bon Dance Festival“
主催
東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
事業連携
アルスエレクトロニカ
協賛
EcoFlow Europe s.r.o.
開催概要はこちら
Ars Electronica
アルスエレクトロニカ
オーストリアのリンツ市が創設した、アートと先端テクノロジーのクリエイティブ拠点。
世界最大規模のメディアアートのフェスティバル「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」を40年以上にわたり、毎年開催。
企業、行政、文化・教育・研究機関などと共同で、アートや技術の未来を研究する「フューチャーラボ」も設置。
この他、未来の美術館、未来の学校として知られる「アルスエレクトロニカ・センター」と、世界で最も長い歴史を持つメディアアートの国際コンペティション「プリ・アルスエレクトロニカ」などで構成。
ABOUT US
わたしたちについて
「CCBTx」は、シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]のミッション「Co-Creative Transformation of Tokyo」の下、「発見」「共創」「開発」「連携」を体現するため、国内外の分野を超えた多様なパートナーと連携して事業を実施し、創造的な社会モデルを提示していくプログラムです。
シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]は、アートとデジタルテクノロジーを通じて人々の創造性を社会に発揮するための活動拠点。ラボ、スタジオ等のスペースを備え、5つのコアプログラム「ミートアップ」「ワークショップ」「アート・インキュベーション」「キャンプ」「ショーケース」をはじめとするさまざまなプログラムを通じて、東京をより良い都市に変える原動力となっていく。